歯槽膿漏とは?歯周病との違い、原因、症状、治療法まで専門家が解説

「歯ぐきから膿が出る」「歯がぐらつく」といった症状から「歯槽膿漏かもしれない」とご心配なのですね。
その不安を解消するために最も大切なのは、歯槽膿漏とは現在でいう「歯周病」が重度に進行した状態を指す言葉だと正しく理解することです。
この記事では、歯周病の直接的な原因であるプラークから、喫煙などの悪化要因、そして放置すれば歯を失う最大の原因となる病気の進行段階、歯科医院での治療法、ご自身でできる予防法までを詳しく解説します。
なおみ昔から聞く「歯槽膿漏」と「歯周病」って、何が違うんですか?
青木院長昔よく使われた「歯槽膿漏」が、今の「重度の歯周病」にあたります
- 歯槽膿漏と歯周病の正しい関係性
- 歯ぐきの出血や膿といった症状と進行段階
- 歯科医院で行う基本的な治療の流れ
- 毎日のセルフケアでできる予防法
歯槽膿漏とは歯周病が重症化した状態

歯ぐきからの出血や腫れ、口臭など、気になるサインがあると「歯槽膿漏かもしれない」と不安になるお気持ち、よくわかります。
その症状の多くは、現在では「歯周病」という病気の枠組みで考えられています。
最も大切なのは、歯槽膿漏は、その歯周病が重度に進行した状態を指す言葉であると正しく理解することです。
手遅れになる前に対処を始めれば、大切な歯を守ることができます。
これから、歯槽膿漏と歯周病の関係から、病気がどのように進行していくのか、そして全身にどのような影響を及ぼすのかを一つひとつ丁寧に解説していきます。
歯槽膿漏と歯周病の正しい関係
「歯槽膿漏(しそうのうろう)」という言葉は、文字通り歯を支える骨(歯槽骨)が膿によって溶かされてしまう状態を指す、昔から使われてきた表現です。
多くの方が、歯ぐきが腫れて膿が出るような、かなり進行した状態をイメージされます。
現在、歯科医療の現場では、より広い範囲をカバーする「歯周病」という言葉を使うのが一般的です。
1990年代以降、歯ぐきだけの炎症である「歯肉炎」と、骨まで破壊が進んだ「歯周炎」をまとめて「歯周病」と呼ぶようになりました。
つまり、歯槽膿漏は歯周病という大きな病気の中の、最も重い段階を指していると理解すると分かりやすいです。
なおみ昔の言葉と今の言葉で違うってこと?
青木院長はい、昔よく使われた「歯槽膿漏」が、今の「重度の歯周炎」にあたります
| 用語 | 指し示す状態 | 現在の一般的な位置づけ |
|---|---|---|
| 歯槽膿漏 | 歯を支える骨が溶け、歯ぐきから膿が出る状態 | 歯周病が重度に進行した状態を指す俗称・旧称 |
| 歯周病 | 歯肉炎と歯周炎の総称 | 歯を支える組織に起こる病気の正式名称 |
| 歯肉炎 | 歯ぐきのみに炎症が限定されている状態 | 歯周病の初期段階 |
| 歯周炎 | 炎症が歯槽骨など深部組織まで広がった状態 | 歯周病が進行した状態(軽度・中等度・重度) |
専門的な使い分けはありますが、日常生活では「歯槽膿漏=重度の歯周病」と捉えて問題ありません。
大切なのは呼び名ではなく、症状に気づいて対処を始めることです。
初期段階の歯肉炎から重度の歯周炎への進行
歯周病は、ある日突然重症になるわけではありません。
多くの場合、痛みもなく静かに進行していきます。
その始まりは歯ぐきにのみ炎症が限定された「歯肉炎」という段階です。
歯肉炎の段階であれば、歯磨きの時に血が出る程度の症状で、毎日の丁寧な歯磨きで原因となるプラークを取り除くことで、健康な状態に戻せることも少なくありません。
しかし、このサインを見逃して放置してしまうと、炎症は歯ぐきの奥深く、歯を支える骨にまで及ぶ「歯周炎」へと進行します。
日本の成人のおよそ8割が何らかの歯周病にかかっているという調査結果もあり、決して他人事ではないのです。
| 進行段階 | 主な症状 | 歯周ポケットの深さの目安 | 骨の状態 |
|---|---|---|---|
| 健康な歯ぐき | ピンク色で引き締まっている | 1〜2mm | 変化なし |
| 歯肉炎(初期) | 歯磨き時の出血、歯ぐきの赤みや腫れ | 3mm程度 | 骨は溶けていない |
| 軽度歯周炎 | 出血や腫れに加え、冷たいものがしみることも | 3〜5mm | 歯槽骨が少し溶け始める |
| 中等度歯周炎 | 歯が長くなったように見える、口臭、歯のぐらつき | 4〜7mm | 歯槽骨が半分近く溶ける |
| 重度歯周炎(歯槽膿漏) | 歯ぐきから膿が出る、歯が大きくぐらつく、自然に抜けることも | 6mm以上 | 歯槽骨が半分以上溶ける |
歯周炎へと進行すると、歯を支える骨は少しずつ溶かされていきます。
一度溶けてしまった骨は、基本的に元には戻りません。
だからこそ、症状が軽いうちに進行を食い止めることが何よりも重要になります。
歯を失う最大の原因としての歯周病
歯を失う原因と聞くと、多くの方が虫歯を思い浮かべるかもしれません。
しかし、実は成人においては虫歯よりも歯周病で歯を失う人の方が多いという事実があります。
公益財団法人8020推進財団が行った2018年の調査によると、歯科医院で歯が抜かれた原因の第1位は歯周病で37.1%を占め、虫歯(29.2%)を上回りました。
特に40歳を過ぎると、歯周病によって歯を失う人の割合は増加する傾向にあります。
これは、歯周病が痛みなどの自覚症状が出にくいまま静かに進行し、気づいた時には手遅れになっているケースが多いためです。
なおみ歯が抜けるなんて、まだ先の話だと思っていました…
青木院長実は40代以降、歯周病で歯を失うリスクは急に高まります
歯周病は、単に歯ぐきが腫れるだけの病気ではなく、大切な歯そのものを奪ってしまう最も大きな原因です。
自分の歯で生涯食事を楽しむためには、歯周病の予防と管理が不可欠なのです。
歯周病が及ぼす全身への影響(糖尿病・心疾患など)
歯周病は、お口の中だけの問題に留まりません。
近年の研究で、歯周病菌やその菌が作り出す毒素が、歯ぐきの血管を通って全身に広がり、様々な病気を引き起こしたり悪化させたりすることが分かってきました。
特に糖尿病との関連は深く、歯周病は「糖尿病の6番目の合併症」とも呼ばれるほどです。
歯周病があると血糖値のコントロールが難しくなり、逆に糖尿病の人は歯周病が悪化しやすいという、互いに悪影響を及ぼし合う関係にあります。
さらに、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気のリスクを高めることも指摘されています。
| 関連が指摘される全身疾患 | どのような影響があるか |
|---|---|
| 糖尿病 | 血糖コントロールを悪化させ、逆に糖尿病が歯周病を進行させる双方向の関係 |
| 心血管疾患(心筋梗塞・狭心症など) | 歯周病菌が血管の動脈硬化を促進するリスク |
| 脳梗塞 | 歯周病の人はそうでない人に比べ、脳梗塞の発症リスクが約2.8倍高いという報告 |
| 誤嚥性肺炎 | 口の中の歯周病菌が唾液などと共に気管に入り、肺で炎症を起こす |
| 早産・低体重児出産 | 歯周病の炎症性物質が、子宮の収縮を促す可能性がある |
お口の健康は、全身の健康の入り口です。
歯周病をしっかりと治療し、予防することは、将来の深刻な病気を防ぎ、健康寿命を延ばすことにも直接つながります。
歯周病を引き起こす根本的な原因と悪化要因

歯周病の根本的な原因は細菌の塊であるプラークですが、それ以外にも病気の進行を加速させる様々な要因が存在します。
直接的な原因であるプラークを徹底的に取り除くことが最も重要であり、同時に生活習慣などの悪化要因を見直すことが歯周病のコントロールには不可欠です。
| 項目 | プラーク(歯垢) | 歯石 | 喫煙 | ストレス・生活習慣 | 女性ホルモン |
|---|---|---|---|---|---|
| 役割 | 直接的な原因 | プラークの足場 | 進行を早める要因 | 免疫力を低下させる要因 | 菌の増殖を促す要因 |
| 特徴 | 細菌の塊 | 硬化したプラーク | 血行不良・免疫低下 | 全身の免疫力低下 | 特定の歯周病菌を増殖 |
| セルフケア | 歯磨きで除去可能 | 歯磨きで除去不可 | 禁煙が必要 | 生活習慣の改善 | 丁寧な歯磨きが必要 |
| 専門ケア | PMTC | スケーリング | 禁煙指導 | — | 歯科検診 |
お口の中のケアと全身の状態、その両方に目を向けて対策を進めることで、歯周病のリスクを効果的に下げることができます。
直接の原因となる細菌の塊プラーク(歯垢)
歯周病の直接的な引き金となるのはプラーク(歯垢)です。
これは食べかすではなく、お口の中に常にいる細菌がネバネバした物質を作り出し、歯の表面にフィルム状に付着した塊を指します。
プラークはわずか1mgの中に約1億個以上もの細菌が棲みついていると言われ、その中には歯周病を引き起こす歯周病菌が多数含まれています。
この細菌が出す毒素によって、歯ぐきに炎症が起きるのです。
なおみプラークって、ただの食べかすだと思っていました…
青木院長いいえ、実は恐ろしい細菌の巣窟なのです
毎日の丁寧な歯磨きでこのプラークを物理的にこすり落とすことが、歯周病予防の最も基本的なステップになります。
歯磨きでは取れない歯石の付着
歯石とは、歯に残ったプラークが唾液に含まれるカルシウムやリンなどのミネラル成分と結びつき、石のように硬くなったものです。
歯と歯ぐきの境目や歯の裏側につきやすく、白や黄白色をしています。
プラークが歯の表面に付着してから約2日間で歯石への変化が始まり、一度できてしまうと歯ブラシでこすっても取り除くことはできません。
歯石の表面はザラザラしているため、さらにプラークが付着しやすくなるという悪循環を生み出し、歯周病菌の温床となります。
歯石の除去は歯科医院で「スケーリング」という専門的な処置を受ける必要があります。
進行を早める喫煙の習慣
喫煙は、歯周病の進行を著しく早める最大の危険因子です。
タバコに含まれるニコチンには血管を収縮させる作用があり、歯ぐきの血流を悪化させます。
血流が悪くなると、歯ぐきに十分な酸素や栄養が行き渡らなくなり、組織の修復能力や細菌に対する抵抗力が低下します。
その結果、非喫煙者に比べて歯周病にかかるリスクが5倍以上も高まり、治療をしても治りにくくなります。
また、喫煙していると歯ぐきの炎症や出血といった初期症状が現れにくいため、気づいた時には重症化しているケースも少なくありません。
なおみタバコが歯周病をそんなに悪化させるなんて…
青木院長はい、禁煙は歯周病治療の成功に不可欠です
大切な歯を守るためには、禁煙に取り組むことが極めて重要です。
免疫力を低下させるストレスや生活習慣の乱れ
仕事や人間関係による過度なストレス、睡眠不足、栄養バランスの偏った食事といった生活習慣の乱れは、全身の免疫力を低下させ、歯周病を悪化させる要因となります。
私たちの体は、細菌などの外敵と戦うための防御システムを備えています。
しかし、ストレスや疲労がたまると、この防御システムが正常に機能しなくなり、歯周病菌に対する抵抗力が弱まります。
その結果、普段なら抑えられていた歯ぐきの炎症が、一気に進行してしまうことがあるのです。
歯周病の予防や改善には、お口のケアに加えて、心と体の健康を保つための規則正しい生活を送ることが大切です。
女性ホルモンの変動が関係する妊娠期
思春期や妊娠・出産期、更年期など、女性ホルモンのバランスが大きく変動する時期は、歯ぐきの炎症が起こりやすくなります。
特に妊娠中は、「妊娠性歯肉炎」と呼ばれる歯ぐきの腫れや出血が起きやすい状態です。
これは、女性ホルモンの一種であるエストロゲンやプロゲステロンを好む特定の歯周病菌が増殖しやすくなるためです。
また、つわりで歯磨きが思うようにできなかったり、食事の回数が増えたりすることも、お口の中の環境を悪化させる原因となります。
妊娠中の歯周病は、早産や低体重児出産のリスクを高める可能性も指摘されています。
体調が安定している時期に歯科検診を受け、専門家によるケアとアドバイスを受けることをお勧めします。
自分で気づける歯周病のサインと進行度のチェック

歯周病は「沈黙の病気」とも呼ばれ、初期段階では自覚症状がほとんどないまま静かに進行します。
そのため、ご自身のお口の小さな変化に気づくことが、手遅れになる前に病気を発見し、大切な歯を守るための第一歩となります。
これから挙げるサインは、歯周病が始まっていたり、進行していたりすることを示す体からの警告です。
ご自身の状態と照らし合わせながら、一つひとつ確認していきましょう。
これらのサインに心当たりがあれば、それは歯周病の存在を示唆しています。
たとえ症状が軽くても、自己判断で放置せず、一度専門家である歯科医師のチェックを受けることが重要です。
早期発見と早期治療が、将来の歯の健康を大きく左右します。
初期症状である歯ぐきの出血や赤み・腫れ
歯周病の最もわかりやすい初期サインは、歯肉炎と呼ばれる歯ぐきだけの炎症です。
健康な歯ぐきは薄いピンク色で引き締まっていますが、プラークが原因で炎症が起こると、毛細血管が充血して赤みを帯び、少し腫れた状態になります。
歯磨きやデンタルフロスを使った時に歯ブラシに血が付くのは、弱った歯ぐきからのSOSサインといえます。
「血が出るから」と歯磨きを避けてしまうと、原因であるプラークがさらに蓄積し、炎症が悪化する悪循環に陥ります。
なおみ歯磨きで血が出るのは、強く磨きすぎているせいだと思っていました…
青木院長ゴシゴシ磨きが原因のこともありますが、多くはプラークによる炎症が原因ですよ。
この歯肉炎の段階であれば、歯科医院で正しい歯磨きの方法を学び、毎日のセルフケアでプラークを丁寧に取り除くことで、歯ぐきは再び健康な状態に戻ることがほとんどです。
口臭や朝起きた時の口の中のネバつき
ご自身やご家族から指摘される口臭も、歯周病が原因で発生することが多い症状の一つです。
これは、歯周ポケットに潜む歯周病菌が、血液や剥がれ落ちた細胞などのタンパク質を分解する際に発生させる揮発性硫黄化合物(メチルメルカプタンなど)が原因です。
この物質が、腐った玉ねぎや卵のような独特の不快な臭いを生み出します。
また、朝起きた時に口の中がネバつくのも、重要なサインです。
睡眠中は唾液の分泌量が減るため、お口の中で細菌が繁殖しやすくなります。
歯周病が進行していると、お口の中の細菌や、歯周ポケットから染み出る液体(滲出液)の量が増えるため、より強いネバつきとして感じられるのです。
なおみ口臭ケアのガムを使っても、根本的な解決にはならないんですね。
青木院長その通りです。原因となっている細菌を取り除かなければ、臭いは消えません。
市販の洗口液やタブレットで一時的に臭いを隠すのではなく、原因となっている歯周病そのものを治療することが、口臭の根本的な改善につながります。
歯ぐきが下がり歯が長くなった見た目の変化
歯周病が歯肉炎から歯周炎へと進行すると、炎症は歯ぐきの内部に広がり、歯を支えている顎の骨(歯槽骨)を溶かし始めます。
骨が失われると、その上にある歯ぐきも一緒に下がっていきます。
これを歯肉退縮と呼び、結果として歯の根元部分が露出し、以前よりも歯が長くなったように見えます。
歯ぐきが下がることで、歯と歯の間に黒い三角形の隙間(ブラックトライアングル)が目立つようになります。
この隙間には食べ物が挟まりやすくなり、プラークが溜まる原因にもなります。
さらに、本来象牙質を覆っている歯ぐきがなくなることで、冷たい水や風がしみる「知覚過敏」の症状が現れることも少なくありません。
なおみ最近、鏡を見ると歯が長くなった気がしていました…
青木院長それは骨が溶けているサインかもしれません。早めのチェックが必要です。
見た目の変化だけでなく、露出した歯の根はエナメル質に覆われていないため虫歯になりやすいというリスクもあります。
歯が長くなったと感じたら、見た目の問題として片付けずに歯科医院に相談してください。
歯ぐきを押すと出る白い膿
歯ぐきから白い膿が出てくる症状は、かつてこの病気が歯槽膿漏と呼ばれていた由来そのものです。
この膿の正体は、歯周病菌と戦って死んだ白血球の死骸や細菌の塊であり、炎症がかなり進行していることを示す危険なサインです。
歯周病が悪化して歯周ポケットが深くなると、ポケットの内部が細菌の巣窟となり、慢性的な感染状態が続きます。
体が細菌と戦おうとすることで膿が作られ、歯周ポケット内に溜まります。
歯ぐきを指で優しく押したときに、歯と歯ぐきの境目から白いドロっとした液体が出てくる場合は、中等度から重度の歯周炎に進行していると考えられます。
なおみ膿が出ても、痛みがないこともありますか?
青木院長はい、慢性的に進行するため、強い痛みを感じないことも多いのが歯周病の怖いところです。
痛みがないからといって放置してしまうと、気づかないうちに歯を支える骨が急速に破壊されていきます。
膿に気づいた時点で、できるだけ早く歯科医院を受診する必要があります。
食事の際に感じる歯のぐらつきや違和感
歯のぐらつき(動揺)は、歯周病によって歯を支える骨が広範囲にわたって失われたときに現れる、末期の症状です。
これは、家で例えるなら土台が崩れかけている状態であり、歯が抜け落ちる一歩手前であることを示しています。
初期の段階では、リンゴやせんべいのような硬いものを噛んだ時に「何となく力が入りにくい」「少し沈むような感じがする」といった微妙な違和感として現れます。
病状が進行し、歯を支える骨が半分近く失われると、指で触った際に前後左右に1mm以上揺れるのが分かるようになります。
なおみ少しぐらつくくらいなら、まだ大丈夫ですよね…?
青木院長いいえ、ぐらつきを感じる時点で、かなり骨が失われています。一刻も早く治療を始めましょう。
歯がぐらつき始めると、噛むたびに歯に負担がかかり、さらに歯周病の進行を早めてしまいます。
治療によって歯を残せる可能性もありますが、その難易度は格段に上がります。
少しでも歯の揺れや噛んだ時の違和感を覚えたら、手遅れになる前に歯科医師に相談することが何よりも大切です。
すぐに歯科医院を受診すべき症状の目安
これまでにご紹介したサインは、いずれも歯科医院での検査が必要なものですが、中でも特に放置すると歯を失うリスクが急激に高まる「危険なサイン」があります。
以下の表にまとめた症状が一つでも見られる場合は、歯周病がかなり進行していると考えられますので、自己判断せず、できるだけ早く歯科医院を受診してください。
| 危険度 | 症状 | 考えられる状態 |
|---|---|---|
| 高 | 歯ぐきから自然に出血する、または膿が常に出る | 重度の歯周炎、急性炎症 |
| 高 | 歯が明らかにぐらぐらする、位置が変わった気がする | 歯を支える骨の大幅な喪失 |
| 高 | 歯ぐきが大きく腫れてズキズキと痛む | 急性歯周膿瘍(膿の袋)の形成 |
| 中 | 硬いものが噛めない、噛むと鈍い痛みがある | 咬合性外傷の併発、重度の歯周炎 |
| 中 | 歯が長くなったように見え、歯と歯の隙間が目立つ | 顎の骨の吸収が相当進行 |
これらの症状は、お口の中が深刻な状態にあり、歯を失う可能性が目前に迫っていることを示しています。
治療に対する不安な気持ちはよく分かりますが、これ以上進行させないために、まずは勇気を出して専門家である私たちにご相談ください。
早期に治療を始めることが、あなたの大切な歯を守るための最善の方法です。
歯科医院で行う歯周病治療の基本的な流れ

歯科医院での歯周病治療は、闇雲に進めるものではありません。
検査から治療、そしてその後のメンテナンスまで、計画的に段階を踏んで進めていきます。
患者さんご自身がお口の状態を正しく理解し、治療のゴールを共有することが、歯周病を克服するための大切な第一歩です。
ここからは、歯科医院で行われる一般的な治療の流れを順を追ってご説明しますので、安心して治療に臨むための参考にしてください。
治療は歯科医師と患者さんの二人三脚で進めるものであり、一緒に健康な歯ぐきを取り戻していきましょう。
歯周ポケットの深さや骨の状態を調べる精密検査
歯周病治療を始めるにあたり、まずはお口の中の状態を正確に把握するための精密検査を行います。
「歯周ポケット」とは、歯と歯ぐきの間にできる溝のことで、健康な状態では深さが1~2mm程度です。
この溝の深さを専用の細い器具(プローブ)で測定し、歯周病の進行度を調べます。
この検査では、歯周ポケットの深さが4mm以上あると歯周炎が疑われます。
同時に、レントゲン撮影によって、歯を支えている顎の骨がどの程度失われているかを確認したり、歯ぐきからの出血の有無をチェックしたりします。
この検査結果が、今後の治療計画を立てるための重要な基礎情報となるのです。
なおみ検査って、痛いんでしょうか…?
青木院長チクッとした感覚はありますが、麻酔が必要なほどの痛みはほとんどありません。
これらの検査によって、どの歯がどの程度歯周病に侵されているのかを客観的なデータとして把握し、一人ひとりのお口の状態に合わせた治療計画を立案します。
プラークや歯石を取り除くスケーリングとルートプレーニング
精密検査の後は、歯周病の直接的な原因であるプラークや歯石を取り除く基本的な治療を開始します。
「スケーリング」とは歯の表面や歯周ポケットの比較的浅い部分に付着したプラークや歯石を、専用の器具を使って取り除く処置です。
一方、「ルートプレーニング」は、スケーリングだけでは届かない歯周ポケットの奥深く、歯の根(ルート)の表面にこびり付いた歯石や歯周病菌に汚染されたセメント質を除去し、表面をツルツルに磨き上げる処置を指します。
これらの処置は一度に全ての歯を行うのではなく、お口の中を通常4~6ブロックに分けて、数回にわたって丁寧に行います。
歯石が除去され、歯の根の表面が滑らかになることで、プラークが再付着しにくくなり、歯ぐきの炎症が改善して引き締まってくる効果が期待できます。
この基本治療が歯周病治療の根幹であり、ご自宅でのセルフケアの効果を高める上でも欠かせないステップとなります。
進行した場合に選択される歯周外科治療
基本治療を行っても歯周ポケットが深く、改善が見られない場合には、次のステップとして歯周外科治療が検討されます。
「歯周外科治療」とは、歯ぐきを部分的に切開して剥がし、歯の根を直接目で確認しながら、奥深くにこびり付いた歯石や炎症組織を徹底的に取り除く手術のことです。
「フラップ手術」とも呼ばれます。
この手術によって、基本治療では器具が届かなかった6mm以上の深い歯周ポケットの底まで、原因となる汚れを確実に除去することが可能になります。
また、歯周病によって失われてしまった顎の骨を再生させる「歯周組織再生療法」という、より高度な外科治療が選択される場合もあります。
なおみ手術と聞くと、なんだか怖いですね…
青木院長局所麻酔をしっかりと行いますので、手術中に痛みを感じる心配はありませんよ
歯周外科治療は、歯周病が重度に進行した場合に、歯を抜かずに保存するための有効な手段です。
もちろん、すべての患者さんに必要な治療ではなく、基本治療後の再評価の結果をもとに、その必要性を慎重に判断します。
再発を防ぐための定期的なメンテナンス
歯周病の治療がひと通り終わった後も、それで終わりではありません。
治療によって取り戻した健康な状態を長く維持し、再発を防ぐためには、定期的なメンテナンスが不可欠です。
ここでの「メンテナンス」とは、治療後の安定した歯ぐきの状態を維持管理するために、歯科医院へ定期的に通院してプロフェッショナルケアを受けることを意味します。
メンテナンスの間隔はお口の中の状態によって異なりますが、一般的には3ヶ月から半年に1回が目安です。
歯科医院では、ご自身の歯磨きでは落としきれない部分のプラークや初期の歯石を専門的な器具で清掃(PMTC)したり、歯周ポケットの深さを再度測定したりして、再発の兆候がないかを細かくチェックします。
歯周病は生活習慣病の一面も持っているため、治療後も油断は禁物です。
この継続的なプロのケアこそが、あなたの歯を将来にわたって守るための最も重要な鍵となります。
治療にかかる費用の目安と健康保険の適用範囲
治療を受ける上で、費用がどのくらいかかるのかは心配な点のひとつだと思います。
歯周病の治療は、特殊な材料を使用する一部の再生療法などを除き、検査から外科治療、メンテナンスに至るまで基本的に健康保険が適用されます。
具体的な費用は症状の進行度や治療内容によって異なりますが、初期段階の歯周病で基本治療(検査、歯石除去、歯磨き指導など)を受ける場合、自己負担3割の方で総額10,000円から20,000円程度が一つの目安です。
もちろん、治療回数や範囲によって費用は変動します。
| 治療内容 | 費用目安(3割負担) | 備考 |
|---|---|---|
| 初診・精密検査 | 3,000円~5,000円程度 | レントゲン撮影などを含む |
| スケーリング・ルートプレーニング | 1回あたり1,000円~3,000円程度 | 全体を数回に分けて実施 |
| 歯周外科治療 | 1手術あたり6,000円~15,000円程度 | 手術の範囲や内容による |
| メンテナンス | 1回3,000円~5,000円程度 | PMTC、検査などを含む |
治療を開始する前には、必ず治療計画とそれにかかるおおよその費用について歯科医師から説明があります。
もし費用に関して不安な点や分からないことがあれば、遠慮なく質問し、十分に納得した上で治療を進めることが大切です。
歯周病を予防する毎日のセルフケア方法

歯周病の治療や予防において最も重要なのは、原因であるプラークを毎日のご自身のケアで徹底的に取り除くことです。
歯科医院での治療も大切ですが、日々の積み重ねがなければ、すぐに再発してしまいます。
この見出しでは、ご自宅でできる歯周病予防の具体的な方法として、毎日の正しい歯磨きの方法から、歯ブラシだけでは届かない場所を清掃するデンタルフロスや歯間ブラシの活用法、生活習慣の見直し、そして予防効果を最大化するための専門家による定期検診まで、一つひとつ詳しく解説します。
| 予防法 | 主な目的 | 頻度の目安 |
|---|---|---|
| 正しい歯磨き | 歯の表面のプラーク除去 | 毎食後 |
| デンタルフロス | 歯と歯の間のプラーク除去 | 1日1回 |
| 歯間ブラシ | 歯と歯のすき間のプラーク除去 | 1日1回 |
| 生活習慣の見直し | 歯周病のリスクを下げる | 毎日 |
| 定期検診 | 専門家による清掃とチェック | 3~6ヶ月に1回 |
毎日のセルフケアでプラークをコントロールし、定期的にプロのチェックを受けるという両輪を回していくことが、あなたの歯を歯周病から守る最も確実な道筋です。
プラークコントロールの基本となる毎日の正しい歯磨き
プラークコントロールとは、歯周病の根本原因である細菌の塊「プラーク(歯垢)」を、歯磨きなどの方法で取り除き、その量を減らすことで病気の発症や進行を抑えるという考え方です。
歯周病予防は、このプラークコントロールから始まります。
ただ時間をかけて磨くだけでなく、汚れが残りやすい場所に確実に歯ブラシを当てることが重要です。
特に、歯と歯ぐきの境目には、歯ブラシの毛先を45度の角度で当て、5mm程度の幅で小刻みに優しく動かす「バス法」という磨き方が効果的です。
力を入れすぎると歯ぐきを傷つけてしまうため、鉛筆を持つくらいの軽い力で磨きましょう。
なおみ毎日磨いているのに、どうして歯周病になるのでしょうか?
青木院長磨いているつもりでも、汚れが残りやすい場所にブラシが届いていないことが多いのです
毎日の食事のたびにプラークは作られますから、丁寧な歯磨きを継続することが歯周病予防の土台となります。
デンタルフロスの活用法|歯ブラシで届かない歯間を清掃
歯ブラシによる歯磨きだけでは、口腔内全体のプラークの約60%しか除去できないと言われています。
歯ブラシでは届きにくい歯と歯の間のプラークを取り除くために不可欠なのが、デンタルフロスです。
デンタルフロスには、必要な長さを切って指に巻きつけて使う「糸巻きタイプ」と、持ち手が付いている「ホルダータイプ」があります。
糸巻きタイプは、約40cm(指先から肘くらいまで)の長さに切り、中指に巻きつけて歯と歯の間にゆっくり挿入し、歯の側面に沿わせて上下に動かして汚れをかき出します。
特に就寝前の1日1回、歯磨きの前に使用すると効果的です。
| 種類 | 特徴 | こんな方におすすめ |
|---|---|---|
| 糸巻きタイプ | 歯と歯の接触面にフィットさせやすい | フロスの扱いに慣れている方、コストを抑えたい方 |
| F字型ホルダー | 奥歯にも届きやすい | 初心者の方、奥歯の清掃が難しい方 |
| Y字型ホルダー | F字型よりさらに奥歯に使いやすい | 奥歯の歯間が狭い方、不器用な方 |
毎日の習慣にデンタルフロスを加えることで、歯ブラシだけでは届かない場所の歯周病菌を取り除き、病気の発症リスクを大幅に下げられます。
歯ぐきの状態に合わせた歯間ブラシの選択と使用法
歯間ブラシは、特に歯ぐきが下がり、歯と歯の間のすき間が広くなってきた部分のプラーク除去に非常に効果的な清掃用具です。
デンタルフロスが通りにくいブリッジの下や、矯正装置の周りの清掃にも役立ちます。
最も重要なのは、すき間の広さに合ったサイズを選ぶことです。
無理に太いサイズを挿入すると歯ぐきを傷つけてしまいますから、歯と歯の間にスムーズに挿入できる最も細いサイズから試すようにしましょう。
歯科医院でご自身の歯のすき間に合ったサイズを教えてもらうのが最も確実です。
使用する際は、歯の側面に沿わせて数回往復させて汚れを取り除きます。
なおみ歯間ブラシを使うと血が出ることがあって怖いのですが…
青木院長それは歯ぐきに炎症があるサインです。続けることで炎症が改善し、出血しなくなりますよ
ご自身の歯ぐきの状態に合った歯間ブラシを正しく使うことで、プラークコントロールの効果は格段に向上し、歯ぐきの健康を保つことにつながります。
生活習慣の見直しと禁煙の重要性
喫煙は、歯周病を悪化させる最大の危険因子の一つです。
タバコに含まれるニコチンが歯ぐきの血管を収縮させ、血流を悪くするため、歯周病菌と戦うための酸素や栄養が届きにくくなります。
研究によると、喫煙者は非喫煙者と比較して歯周病にかかるリスクが最大で8倍も高く、歯を失う確率も約2倍になることが報告されています。
また、喫煙は歯周病治療の効果を著しく低下させることも分かっています。
ストレスや不規則な食生活、睡眠不足なども体の免疫力を低下させ、歯周病菌に対する抵抗力を弱めてしまうため、注意が必要です。
| 生活習慣 | 歯周病への影響 |
|---|---|
| 喫煙 | 歯ぐきの血流悪化、免疫力の低下、治療効果の阻害 |
| ストレス | 免疫力の低下、歯ぎしり・食いしばりの誘発 |
| 不規則な食生活 | 栄養バランスの乱れによる免疫力低下、間食によるプラーク増加 |
| 睡眠不足 | 免疫力の低下 |
歯周病の予防や治療の成功には、禁煙やバランスの取れた食事、十分な睡眠といった全身の健康を整えることが非常に重要です。
専門家による定期検診とプロフェッショナルケア
どれだけ丁寧にセルフケアを実践していても、自分では取り除けない硬い歯石や、細菌の集合体である「バイオフィルム」は必ず付着します。
そのため、歯周病を確実に予防するには、定期的なプロフェッショナルケアが欠かせません。
歯科医院では、専用の器具を使って歯石を取り除く「スケーリング」や、PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)と呼ばれる専門的なクリーニングを行います。
これにより、普段の歯磨きでは落とせない細菌の膜まで徹底的に除去できます。
検診の頻度は歯ぐきの状態によって異なりますが、一般的には3ヶ月から半年に1回が目安です。
定期検診は、初期の歯周病を早期に発見し、重症化を防ぐためにも極めて重要となります。
なおみ特に症状がなくても歯医者に行く必要がありますか?
青木院長はい、歯周病は自覚症状なく進行することが多いので、症状が出る前の予防が何より重要です
ご自宅でのセルフケアと、歯科医院でのプロフェッショナルケア。
この二つを両立させることが、生涯にわたってご自身の歯を守るための最も確実な方法です。
よくある質問(FAQ)
- 歯槽膿漏(歯周病)は完全に治りますか?
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進行を食い止め、健康に近い状態を維持することは可能です。
しかし、歯周病によって一度溶けてしまった歯を支える骨は、基本的には元に戻りません。
治療の目標は、これ以上悪化させないことと症状をコントロールすることです。
そのためにも、治療後の定期的なメンテナンスが非常に重要になります。
- 歯周病の治療費用は高額になりますか?
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歯周病の基本的な治療は、検査から歯石の除去、外科的な処置まで、その多くが健康保険の適用範囲内です。
そのため、極端に高額になることはありません。
症状が軽いうちに治療を始めれば、費用も期間も抑えられます。
特殊な再生治療など保険適用外の治療法を希望する場合は、必ず事前に歯科医師から詳しい説明があります。
- 市販薬や歯磨き粉で歯周病を自分で治すことはできますか?
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市販薬や特定の歯磨き粉は、歯ぐきの腫れや出血といった症状を一時的に和らげる効果はあります。
しかし、歯周病の根本的な原因である歯周ポケットの奥深くにある歯石やプラークを取り除くことはできません。
自分で治すことは困難であり、歯科医院で専門的な治療を受けることが不可欠です。
- 歯石を取る治療(スケーリング)は痛みを伴いますか?
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歯石を取るスケーリングでは、チクチクとした痛みを感じることがあります。
特に歯ぐきに強い炎症があったり、知覚過敏があったりすると痛みを感じやすいです。
痛みが強い場合は表面麻酔や局所麻酔を使用できますので、治療中に無理をせず、遠慮なく歯科医師や歯科衛生士に伝えてください。
- 歯茎から膿が出たら何科を受診すればよいですか?
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歯茎からの出血や腫れ、膿などの症状がある場合は、すぐに「歯科」または「歯科医院」を受診しましょう。
歯周病は歯科の専門分野です。
より高度な治療が必要な場合は、歯科医師が「歯周病専門医」がいる歯科医院を紹介することもあります。
- 歯周病は何歳くらいの年代から注意が必要ですか?
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歯周病は40代以降に進行しやすくなりますが、原因となるプラークはどの年代のお口にも存在します。
10代や20代でも、歯磨きが不十分だと初期症状である歯肉炎は起こります。
若いからと安心せず、全ての年代で日々の正しいセルフケアと定期的なチェックが重要です。
- 歯周病が原因の口臭にはどんな特徴がありますか?
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歯周病が原因の口臭は、歯周病菌が作り出すガスによるもので、腐った玉ねぎや卵のような独特の不快な臭いが特徴です。
歯磨きやマウスウォッシュだけでは根本的な解決にはなりません。
原因である歯周病の治療を進めることで、口臭も改善していきます。
- 少し歯がぐらぐらしますが、もう抜くしかないのでしょうか?
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歯がぐらぐらする症状は、歯周病がかなり進行しているサインです。
しかし、すぐに抜歯が決まるわけではありません。
歯を支える骨がどのくらい残っているかによりますが、徹底した歯石除去や歯周外科治療によって歯を残せる可能性は十分にあります。
手遅れになる前に、一刻も早く歯医者で相談しましょう。
まとめ
この記事では、歯槽膿漏が現在の「歯周病」の重症な段階を指すこと、そしてその原因から治療法までを解説しました。
歯周病は、自覚症状がないまま進行し、最終的に歯を失う最大の原因になるとても怖い病気です。
- 歯槽膿漏は歯周病が重症化した状態を指す言葉
- 原因は細菌の塊プラークで、放置は歯を失うリスク
- 治療の基本は歯科医院での歯石除去
- 毎日のケアと定期検診が進行を止める鍵
歯ぐきの出血や腫れ、口臭など、気になるサインが一つでもあれば、自己判断で放置しないでください。
まずは専門家である私たちに相談し、お口の状態を正確に知ることが、あなたの大切な歯を守るための最も確実な第一歩になります。
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